Sound-Rider

ラフィングライブ「Out Of Order」

舞台音響(システムプラン/マイクPA/特典CD等録音編集)

淡海乃海ポスター

公式HP

スタッフ、出演者はHPを参照ください。
主催:ラフィングライブ
   ネルケプランニング
原作:レイ・クーニ―
翻訳:小田島恒志
演出:野坂実
会場:三越劇場
<出演>
山寺宏一
寿 美菜子
岩崎ひろし
斎藤志郎
三石琴乃
高橋広樹
名塚佳織
岩尾万太郎
斉藤こず恵(友情出演)
水島裕
(公式HPより)

資料

仕込み図 回線図

ざっくり解説

概要

 水島裕さん、山寺宏一さん、野坂実さんのユニット「ラフィングライブ」。前回に引き続き、システムプラン、マイクオペで参加です。さらに今回はパンフレットの特典CDも担当することになりました。特典CDの内容や詳細については別記します。
今回も前回に引き続き銀座にある三越劇場での公演です。今年の作品は「アウトオブオーダー」レイ・クーニー作のワンシチュエーションコメディ。ご存知の方も多いと思います。素敵におバカな作品ですが、戯曲、演出ともに繊細かつ情報量が多く、間一つずれると面白さが半減するし、またセリフ一つ聞こえないと分からなくなるという大変な作品です。今回もマイクオペとしてお客さんの笑い声でかき消される役者の声を届けるためがんばりました。

サウンドプラン

 今回も先輩の横山斉実さんにお力をお借りしました。昨年に引き続き、今回も声を届ける、というのがメインミッションです。また、同時に、野坂さんの演出で、音が鳴る場所から実際出るようにSPを多く仕込んでいます。今回の作品では、窓が閉まる音やドアの裏でのノック、声などはほぼすべて音響のほうで出しています。最終的に14送り(サービス、ロビー送り除く)になりました。かなりリアル“っぽく”作りこまれ、お客さんはほぼ違和感なく聞けたのではないかなと。特に窓の音については、DXR12とCBR10を使って出し、メインにもこぼして、かなりびっくりする音になったと思います。具体的なSPの仕事については後述します。
 メインSPにはDZR15をおかりしました。面で飛んでくる印象があり、下から上までちゃんと飛んできますが大きな音でもストレスを感じない、という感じのSPです。BGMはほとんどなく、主に声と効果音を出していましたが、綺麗に出てくれました。
 マイクについても、どこで話してもマイクで拾えるようにかなりの数を仕込みました。ただ、あくまでオフマイクでの収音です。生声を自然に広がるような収音を目指しています。三越劇場は小屋としては横長でそこまで奥行きがあるわけではないものの、音響設計的に広がる形ではありません。ですので、生声をうまく響かせるようにできればよいと思ってます。送りもメイン(と2階)、インフィル(前列)、1階後方で各マイクの送りを細かく分けています。生声のエネルギーをうまく押せたのではないかなと思っています。
 1階の後ろの数列は張り出し(2階屋)の下になり、どうしても声、音が届きにくい形になっています。その為、劇場側でその下にメイヤーの小型SPMM-4XPが常設されています。モノラルですが、声を送れるのは素晴らしい設備ですね。そこのミックスには毎公演少しずつディレイの調節などをしていました(本番中にipadをもって1階に聞きに行って調整していました)。実際、数msecぐらいの差なんですが、お客さん入ってからの調節ができるのはかなりありがたかったです。また、天井が高くなく、お客さんの笑い声が反響してしまうため、お客さんの笑い声の中で重要なセリフがあるときは送りのマスターを上げたりしていました。それでもお客さんの声に負けてしまうことも多かったですが(苦笑)

システムについて

CX500-1

卓周り。仲良くオペしてます。

〇卓周りについて
 メインミキサーはLS9-16、M出し用のミキサーには01V96iです。接続にはadatを使用しました。WC-MASTERはROSENDAHL Nanoclocksをお借りしました。素晴らしいクロックマスターです。また、adatのAD/DAにはpresonus DegiMaxFSを使っています。よく使っているセットですね。個人的には良い音だと思ってます。少なくとも、OmniOutと比べて音が落ちていたりなどの印象を持ったことないですね。
 M出しミキサーからの送りは、基本的にスピーカーへスルーアウトしています。音作りについては01Vでつくる形ですね。一部の送りについてはLSを通す必要がないので直接アンプへ接続しています(電話用SPなど)。今回は各SPが割とパワーに余裕があったので、各SPにノミナル送りしつつ、足りない分だけメインSPや劇場メインSPから出して補っている感じでした。
〇アウトについて
 メインSPはDZR15をスタンドで立てています。三越劇場は劇場が文化財であり、大臣横などにSPを立てて万が一傷などつけてしまったら取り返しがつかないので、舞台上ではなく、客席におろしてあります。緞帳にもかぶるので、客席に置くのが良いかなぁと思ってます(作品によって置き場所、セッティングは変わると思います)。高さはお客さんの頭の上を通るようにしています。またInfillSPとしてDXR8をスタンドで建てています。おもりとして鉄鎮(シズ)をお借りして固定します。
 劇場のメインもお借りしています。劇場メインでラインアレイが入っています。劇場大臣の上に設置されており、プロセSP的に使っています。非常に良い音ですね。ほぼ声しか出していないので、ローカットしてあります。
 美術に仕込んだSPについて、基本的にはその部屋から出てる音を出せるように設置しています。例えば、寝室SPとして仕込んだStagepasは寝室に入っていった役者さんの声が流れてます。クローゼット(奥SP)、廊下、テレビ、電話も同様です。廊下はドアの向こうでスタッフ役が「ルームサービスです!」というセリフを言っているのですが、ほぼすべて音響のほうで出しています(実際にセリフを言ってもらっても、お客さんすべてに届けるのは難しいという判断)。ただ皆さん声優さんでもあるので、録音した芝居も素晴らしく、お客さんは聞いていても気付かなかったのではないでしょうか。(特に岩崎さんのあのセリフはお客さんの耳にも残ってるんじゃないでしょう)また、ノック、鍵の音などもそれぞれから出してます。
 この作品を見たことある人なら良くご存じだと思いますが、窓はとても大事です。美術、ギミックもなかなか大変なんですけども、音についても結構大変でした。最初10inchのCBR10を置いて出してみたんですが、演出からもっと大きな音を窓からしてほしい、と言われ、最終的にDXR12とCBR10を設置するまでになりました。顔の位置より高い位置までSPの位置を上げ、役者さんにはSPに耳を向けないよう注意してもらいました。それにより、お客さんの満足度は上がってくれたのではないかと思っています。(余談ですが、窓の音についても、本物の窓の締まる音にほかの衝撃音を足して、かなりの攻撃力のある音になったと思います)
 ディレイSPとして、劇場の梁下に設置されている小型SPをお借りして使っています。梁下の座席はどうしても声が届きにくいので、劇場側で設置したのだと思います。非常にうれしいですね。モノラルで6発設置されています。ミックスはバウンダリーマイクをメインに、後ろ向きの無指向性をすこし強めに出しています。後ろ向くとさすがに聞こえないためです。無指向性のため、強めに出しても指向ずれなど起きずきれいに収音できてる気がします。生声っぽく届けたいのですが、お客さんさの笑い声が梁で反射して、かなり聞きにくくなってしまう時もあり、SPっぽいですが音を届けるのを優先したシーンもあります。なお上記していますが、シーンによってはPA卓(2階)から離れ、ipadのアプリを使い1階で調整してたりもします。べ、別に遊んでるわけじゃないんだからね!

CX500-1

CX500。今回はパネルに穴をあけて設置しました。CX500-1

MSC1 あると便利。

〇マイクについて
 舞台面にPCCを5枚置きました。演劇だとよく見るマイクです。またセンターに吊マイクとしてAT835を吊ってあります。本編ではクローゼットの前での芝居が多かったので、綺麗に拾ってくれました。パネル、窓などにCX500を設置してあります。美術さんに協力してもらい、小さな穴をあけて縁などの目立たないところに設置しています。無指向性ですが、パネルが後ろにありますので、反響坂となってきれいに音を拾ってくれます。作品をご存じの人はお判りでしょうが、窓近くでかなり重要なセリフを言うことが多く、窓のところのマイクは特に活躍していましたね。
 下手の部屋の中のマイクは、何度かドアを開けて寝室の中に向かってセリフを言ってるので仕込みました。上手の廊下につけているNT5も同様です。活躍の時間は少ないですが、重要なセリフが多かったのでよく働いてくれました。NT-5はよく使うんですが、値段の手頃ながら良いマイクだと思います。よく考えたら、買ったの学生の時だ。。。(笑)ちなみに、パネルにつけるときはK&Mの23720を使いますが、クラシックプロのMSC1も結構便利です。安いし(900円)
 送りについては、前列、メイン(と2階)、梁下に分けて考えています。
前列のお客さんは基本的に生の声が届くので、インフィルからパネルにつけた後ろ向きのCX500の音を送っているぐらいです。あまり強くしすぎるとSPに近いお客さんには声が届きすぎてしまうので、よい加減を探りました。メインは、後ろ向きのCX,吊マイクをまず送り、不自然にならないようにPCCを混ぜていきました。前列向けと同様、送りすぎるとSPに近いお客さんにストレスかかってしまうので、良いところを探りました。2階向けは劇場メインのラインアレイがきれいに鳴ってくれているので、それほど苦労せずセッティングできました。ラインアレイ自体のセッティングが良いというのもあると思います。どのSPも能力が高いので、EQはそれほど触っていません。また、ハウリングもほとんどしませんでしたので、生声を生かしつつ良いところまで送ることができました。
 梁下のSPについては上記した通りです。ディレイはデフォルトでも入っていましたが、追加で10msecぐらい追加しました。本番中はディレイSP送りのマスターをカスタムフェーダーで表に出しておいて、笑い声が起きで“あろう”箇所のタイミングで上げていました。素晴らしいことに、ほぼ外れませんでした!皆様、さすがでございます!

特典CD収録について

パンフレット(私物)

劇場パンフレット(私物)マイク

録音に使ったB-3×2(重なって見えない) DAW画面

編集画面(ドラマ)

 今回、パンフレットにつく特典CDの録音、編集を担当しました。稽古場に機材を持ち込んでの録音です。内容は、スペシャルトーク集&山寺さんが本編の未来を“勝手に”ショートストーリーのオーディオドラマ化!です。詳しい内容ですが、出演者の方の○○なお話ですね。MCの山寺さんのトーク力もあり、声優の皆さんのかなり生っぽい話が引き出されておりました。個人的には、それぞれの仲の良さ、同じ世界で戦っている人たちの普段の関係性などがうっすら見えて非常に楽しめました。ドラマはホテルのスタッフたち、2つの夫婦、そしてあの“夫婦(!?)”のちょっと未来のお話がそれぞれ展開されてます!内容を知っている人はもちろん、知らない人でもくすっと、ほっこりと、ぞっと引き込まれること間違いありません!なお、こちらのページで今でも購入出来ますので、ぜひ!(ダイマ)
 さて宣伝はこの辺にして、録音について。
 録音は稽古場で行われました。3日に分けて、トークとドラマの収録でした。それぞれ4人ずつ録音でしたので、双指向性のマイクを2本使って、向かい合わせでの録音にしました。稽古場ですのでほかの音が入るという心配はそれほどなかったのですが、部屋の反響や金属棚の鳴りが少し気になったので、大きめの布を持ち込んで棚などの前に置いてできるだけ鳴らないように工夫しました。特に、水場(シンクなど)がどうしてもなりやすいので布という軽いものでも反響音が防げました。また、冷蔵庫や空調なども切ってもらい、できるだけ良い音で録れるようにして頂きました。
 録音機材は、Mic:studioproject B3×2、I/O:Presonus Studio192、PC:MacBookPro13inch(2014)、DAW:Adobe AuditionCS6です。マイクは指向性を変更可能なラージダイヤフラムマイクですね。ちょっと中高音に癖はあるのですが、綺麗に取ってくれるのでよく使っています。今回は双指向性にして使っています。I/O、DAWは僕がよく使っているものです。とくに、Auditionは学生の時から愛用しているんですが、日本でユーザーはそれほど多くないのでしょうか(涙)マイクスタンドなども持ち込みです。
 編集も同ソフトで行いました。腐ってもラジオ制作専攻を卒業してますからラジオの編集やラジオドラマの編集はある程度出来ます(笑)編集についてですが、部屋鳴りが気になるので、ドラマのほうは話しているマイクのみを生かし、もう片方のマイクはできるだけ下げるようにしています。トークのほうはそこまで気にしていませんが、自然な感じで上げ下げしてあります。ラージダイヤフラムでは感度がかなり良いので、ペンシルやSM58などで録音してもよかったかもしれません。でも個人的にラジオドラマは双指向性のマイクで録りたいなぁというどうでもよいこだわりが(笑
 皆様本当に素敵なお芝居とトークでした。ドラマ、トークの内容も含めて楽しい内容だと思います。トークのマスタリングをしているときには山寺さんの「BEYLINE」を聞き比べながら音像や音圧を決めていました。いやぁ、バズーカさんの声を録音する日がくるなんて。。。と感動しておりました(笑)
 余談ですが、本編中につかった声も同じ機材で録音しています。皆様素敵でしたが、特に坂口さんのルームサービスと三石さんのNAは素敵でした。作品を見に来ていただいた方にはご理解いただけると思います。

感想など

 三越劇場にはレイクーニーさんのようなイギリスのコメディがとてもよく合うと思っています。今回のように素敵な役者さんが演じればなおさらです。横長のステージ、その横の長さを生かした演出、役者の皆さんの芝居の大きさ、そして劇場が持つ「空気」が非常によく合い、本当に素敵な公演でした。システムプランとしても、去年の反省を生かし、システムとしてはシンプルになり、音もうまく届けられたのではないでしょうか。
 また、今年は特典CDの録音、編集を担当しました。一応ラジオ制作卒業した端くれとして、今回はかなり気合いを入れて担当しました。いやぁ。。。ラジ制卒業してのらりくらりとこの業界にいると、こんな機会も生まれるんですね。学生の時の僕に伝えたい。。。もっと勉強しておけと。。。オーディオドラマでの皆様の芝居も素晴らしかったです。稽古場の素敵な雰囲気がお客さんに届いていたらなによりです。