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「KAI MUKAI ピアノ録音/MIX」

収録/MIX

収録風景

ピアノ演奏:KAI MUKAI  公式HP
ピアノ:steinway&Sons D-274
収録:NOAH PIANO STUDIO toritudai
   8ST(13帖)
配信:TuneCore
   KAI MUKAI アーティストページ

資料

仕込み図

ざっくり解説

概要

 ろくに譜面も読めないのに頼まれる音楽案件、今回はKAI MUKAI(以下 向井君)のピアノの収録です。なんでも短編映画のBGMになるとか。。。あまり情報のないまま、NOAHの都立大のところで録るからお願い、という電話だけを頼りに向かいました。
 ということで、今回は向井くんのピアノの録音でした。ウォーミングアップ含め7時間、弾き続きの録り続きでした。ピアノ演奏者ってホントすごい。素敵な曲を録音できました。

レコーディングプラン

 ピアノの録音って、シンプルながら非常に難しいです。料理で言えばペペロンチーノ。簡単にも作れるけど、本当に美味しく作るにはかなり技術がいる、みたいな感じですね。ピアノの音って、本当気合い入れて挑まざるをえない難しいものなのです。オナカイタイ(・_・;
 今回は部屋がそこまで大きいわけではないので、アタックの音とピアノの響をきっちりとるイメージでセットしました。シンプルな構成になりましたが、後々になって、アンビエンスマイクとしてもう1本ぐらいあってもよかったのかなぁと思わなくもありませんでした(笑
 向井くんは強めの演奏をしてるイメージがあります。ペダルやタッチの音も入るのですが、どうせ聞こえてしまうので割と一緒に拾ってます。演奏のライブ感があっていいと思うんです。部屋の鳴りもドライで、それら込みで収音できました。
 クリックを聞きながらの演奏をしている曲もありますが、その音も実はすこし拾ってしまっています。それはアドビの科学力Izotopeの科学力で聞こえなくしております。

機材について

 ピアノのスタジオの横には録音ブースが付いており、録音機材をお借りすることができます。録音ブースにI/O:RME Fire Face UFX,マイクプリ:Focusrite ISA 428mk2がはいっていたので、それをお借りしました。PCなどは持ち込みです。PC:MacBookPro13”(2014)、DAW:Adobe AduitionCS6です。
 マイクはホール狙いにRode NT5、反響板のところにStudioProject B3をHi/Lowで一本ずつセットしました。NT5はホールから15cmぐらいのところにセットして、アタックの強い音を拾いました。B3は反響板から1.5mぐらいのところにセットしました。全体的にピアノの鳴りを含めた音が拾えたら、とセットしました。天井がそこまで高いわけではないので返りの音がちょっと心配でしたが、ドライな音が拾えた感じがしますね。B3は学生の時に買って長いこと使っていますが、ピアノの収録は初めて使いました。高音になんとも言えないクセがあり、フラットとは言い難い音ですが、それでもピアノの倍音を綺麗な音で拾うことができました。今回は低音から高音までかなり駆け巡る曲が多く、一番下のオクターブをかなり強く叩いていたので、ラージダイヤフラムを使ったのは正解だったと思っています。
 個人的にFireFaceUFXのマイクプリも素敵な音でとれるので、ラージフダイヤフラムはFireFaceのマイクプリを通しました。NT5はFousrite ISA428を通しています。どちらも良い音でしたので、ちょっと迷いました。

ミックスについて

CX500-1

今回のミックス画面。

 基本的に僕はピアノのミックスについては素人に近いので、雑談程度に聞いていただければ。今回はあまりいじらず素材の感じを生かしてます(いじって音が濁るのが怖かったというのが本音ではありますが)
 音楽のミックスではそこまで使われていないであろう、AdobeAuditionですが、今回はせっかくなのでMIXまでauditonで作業することにしました。
 ざっくりとしたミックスのテーマはライブ感、コンサート感です。向井くんの演奏のパワーを、素材を生かしてそのまま伝えようと思いました。録音したブースがかなりドライに録れる部屋でしたので、せっかくならそれを生かし動作、息遣いも含めてそのまま伝えられれば良いかなと思いました。また、音量のレンジを大きめにとり、小さい音の繊細さ、盛り上がりの時のパワフルさ、生の演奏の音量差を聞いてほしいと思いました。ですので、聴取の際はぜひすこし大きめに聞いて頂きたいと思い、mixしています。
 具体的な作業について。今回は4本のマイクで録音した音源です。バランスは反響板狙いのマイクを基本にして、ホール狙いのマイクを足していきました。音量もLowを拾っているマイクの音量をまず決め、Hiを聴感で不自然にならない感じで合わせてあります。PANもそこまで完全に降るのではなく、Lowが10時ぐらい、Hiが3時ぐらいの広げ方にしています。音像の広がりについては、revにお任せします。コンプもそこまできつくなく、音量のレンジもできるだけ活かせるようにミックスしています。といえ、そのままですと他の曲との差が大きくなってしまうので、自分のなかで落とし込める範囲で音量を決めています。。
 上記しましたが、クリックが聞こえてしまっているのに関してはAuditionのブラシやノイズリダクションなどを使って削れる範囲で削っています。Lowの反響板狙いのマイクに結構入ってしまいましたね。次の機会の時にはクリックについては改めて気をつけないといけないと思いました。
 音源のミックスがある程度できたところで、マスターにトータルコンプとしてNeutronのコンプレッサーをインサートしました。マルチバンドコンプで、今回はピアノの実音のほうに少しだけ引っかかるようにコンプをかけて、程よく高音を残してみました。この後のリバーブのかかり方が変わります。
 次にリバーブをマスターに差し込みました。今回はたまたま直前に購入したリバーブ、Symphony3Dをインサートしました。。パラメーターが細かくいじれること、音の広がり方が良かったですね。特に、リバーブ音のスピード感っていうのが好みでした。空間のシミュレートがあっていたのかもしれません。具体的な数字については図を参照ください。そして図を見るとわかりますが、7.1chモードになってます。なぜか変更できなかったのですが、音は好みだったのでそのままにしてあります(笑
 最後にマスタリングプラグインとして、Ozone9をMasterにインサートしています。EQについては2.3khzあたりを2dbブースト、あとはミックスを崩さない程度のマスタリングですね。あと、MSのシュミレートがあったので、曲によってはすこし広げてみたりもしました。revの広がりとはまた違った広がりが出たかなと思います。

おまけ ノイズの削除について

bleed

図1。クリック入りの音源

bleed

図2。Auditionでのクリック除去
(ノイズリダクションを使用)

bleed

図3。RXでのクリック除去
(re-bleedを使用)

 上記しましたが、今回録音音源の中にヘッドフォンから漏れたメトロノームのクリック音が入ってしまいました。最初はAdobeAuditionのノイズリダクション機能を使って削除しました。具体的な作業ですが、まず本編のクリック部分をノイズリダクションのノイズとしてキャプチャーします。クリック入りの図で、点線に覆われてる部分ですね。そこをノイズとしてキャプチャーし、あとは全体にノイズリダクションをかけてクリック音を減らします。やっていることは、いわゆるイヤフォンのノイズキャンセリングに似ていて、その音を逆位相にしてぶつけて打ち消す、というものですね。もちろん、そんな簡単なものではないので、あくまでイメージとしてとらえてもらえればと思います。聞いていただければわかると思いますが、割と消えてます。
 しかしこの方法だとクリックの周りの空気間も軽減してしまいます。図2のスペクトル表示をよく見てほしいのですが、クリックの音のところのほかの音が消えてしまっています。実音についてはほとんど消えてませんが、響に微妙に違いが出てしまうかもしれません(ただ、この後にリバーブなどをかけた場合、僕にはほぼわかりません)。そこで、新しく導入したIzotope RXのDe-bleed機能でクリックの軽減をやってみました。こちらはクリックの音源を準備する必要があります。クリックだけではなく、オケ音源などでも軽減できるみたいですね。図3のスペクトル表示をみても、Auditionのノイズリダクションと比べてもクリックのみに反応しているのがわかります。音についても、ペダルを踏んででる音が残っていて、好みではありますが、元の音源を残す、ということであればRXのほうが良いでしょう。もちろんノイズリダクションで減らす、というのは想定している使い方ではありませんので、Auditionのほうが効果が低い、ということではありません。
 ということで、RXでの除去をして、音がかさなってるところなどはauditionの修復ツールを使いました。

感想など

 ピアノ難しい。。。というのが率直な感想です。録音した音源がすべてを決めるといっても過言ではないのかもしれません。
 今回、最初は録音だけの予定でしたが、ミックスまでをお願いされがんばることになりました。向井君はドイツの大学に留学しており、時差が7時間。ということで、僕は夕方から夜、彼にとっては昼からの連絡が多く、進行自体はゆっくりすすみました。普段だとミックス作業は聞きながらばーっとやってしまうことが多いので、毎日一回更新ぐらいの速度でのミックスはこれはこれで楽しいものでしたね。(そりゃできればつないでリアルタイムでのミックスが良いのでしょうが)。 今ですと、SYNCROOM等のサービスでかなり高品質でのネット接続が可能でしょうし、それらについても考えていくべきタイミングが来ていると思います(まずは家のネット回線を良くしないと始まりませんけども)
今回の曲はtunecore経由で配信しています。ぜひ聞いてみてください。