Sound-Rider

「淡海乃海~現世を生き抜くことが業なれば」

舞台音響(プラン)

淡海乃海ポスター

公式HP

スタッフ、出演者はHPを参照ください。
主催:TOブックス
原作:イスラフィール
脚本:西瓜すいか
演出:西口綾子
演出補佐:合田誠
舞台監督:吉川尚志(劇団SURF SHOP)
音響:iland.va
照明:松本昭宏・坂井清美(BE NATURAL)
美術:荒川真央香
大道具:S-CASE
衣装:真野真由美・GOLDEN STEPS
衣装部/ヘアメイク:Limo(LimoPiece)
殺陣:白倉裕二
小道具:平野雅史
演出助手:サイトウミサ
カメラマン:渡邉和弘
題字:石川咲登子
制作・票券:株式会社Thavman
プロデューサー 神田明子
企画協力:株式会社MARCOT
会場:新宿村LIVE

<出演>
古畑恵介
中島礼貴
三小田芳樹
佑太
久野木貴士
楠世蓮
松村芽久未
中村悠希
桜樹舞都
帯金遼太
大塚晋也
草場愛
春見しんや
平井浩基
崎嶋勇人
大野愛
東達也

菅野莉央(A)
山中康聖(B)
加藤大輔
中山佳大
毛利光汰
遠藤佑哉
中尾陽太
小野寺俊
小寺孝明
サイトウミサ
橋本深猫
田中杏奈
真理緒
柴木丈瑠
剣持直明
  ほか
(公式HPより)

資料

淡海乃海_仕込み図 回線図

ざっくり解説

概要

 知り合いの音響さん経由でのお仕事。演出はkittenDancePlanetの西口さんです。
いわゆる「なろう小説」と呼ばれる小説を原作にした2,5次元舞台と呼ばれる舞台ですね。といっても、アニメ化はしていないし、ビジュアルは漫画をもとにしていますが、脚本、演出共にあくまで小説をもとに再構築したものですので、あくまで原作が小説のエンタメ芝居という感じでした。
 ダンスあり、殺陣あり、2時間越えのエンタメステージですので、音響もそれに合わせて大き目な音量、低音もしっかり出してあげるプランをとりました。マイクも多めにしてあります。しっかりとした役者さんばかりで、それぞれのマイクが活かせました。
また、今回は収録も入っていたので、収録送りもしっかり分けてあります。急遽配信も入り、収録送りを細かく分けたのは正解でした(収録さんもMTRを持ち込んでくれていた)

サウンドプランについて

 概要でも話した通り、エンタメ舞台なので、マックスボリュームは大き目に設定ました。(いつもそうじゃね?と言われると。。。(;・∀・)
 KittenDancePlanetの演出はもともとダンスと演劇の融合で、今回の演出でも遺憾なく発揮されています。大人数のダンスからソロダンスまでダンス曲が多く、それぞれのダンスの重要性も非常に高いものでした。そこで、大人数でのダンスのエネルギーに負けないぐらい音量、なおかつ大ボリュームを聞いていても耳障りにならないようにHiをしっかりコントロールしての音作りを目指しました。新宿村LIVEにはもともとL- acousticのARCSがメインSPとして置いてあるので、音量については心配ありませんでしたが、HIについては、EQでかなりカットしました。ライブサウンドでしたらそのままで十分かっこよい音が出るのですが、和風の作品だとちょっとHIがお客さんの耳障りにならないかが心配でした。が、CL-3のEQが効いてくれたのか、良い感じになったかなと思います。18inchのSUBがあるので、低音もきれいに出てくれました。
  マイクについては、収録もあるということでちょっと多めです。バウンダリーにtaskamTM90×4、吊のガンマイクとしてNTG2×2とAT835が1本、局所的に拾うためにJTSのCX500を舞台上に2本仕込みました。CX500はピンポイントの収音によく使います。やすくて本数をそろえやすく、無指向なのもあって使いやすいです。EQは無指向性ですので、ローカットと気になるところだけ下げたぐらいです。それでも十分拾うことができました。

TM90のEQTM90の1本のEQ,COMP

EQはローカットを入れて、ハウリングしやすいところを少しだけカットしました。メインSPが良いので、ハウリングはほとんどせず、ふそこまでしっかりいじることなくすみました。左図、TM90の一本です。COMPは-39からかけてありますね。ほぼコンプがかかった状態の音ということです。多分、殺陣用のSPがあったので、強めにかけておいたのかな。。。たぶん(笑)また、忍者の人がひれ伏してマイク前で話したりしていたので、かなり強めにかけたのでしょう。またEXpanderをかけてあります。就労送りがあるので全部ではありません。日常的にCLをつかっていればautoDUGANもありだったのかもしれませんね。
 ワイヤレスのヘッドセットが2本入っています。冒頭に子供の役者が現代から過去へタイムスリップした子供時代を演じるのですが、それは敵国に襲われてる真っ最中で効果音も人も多いシーンです。さすがにその中で子役とはいえ叫んで芝居するのは難しく、またお客さんに「俺」の語りのセリフが届かないのは違うなと思い、子役の子と主人公の精神体である「俺」さんにマイクを付けてもらいました。ただ、あくまでフォローなので、マイクはこめかみのあたりにつけるようにしました。生声との合わせで、ディレイも4msec入れてあります。
  殺陣音用にYAMAHA CBR10を舞台の低い位置に置いてあります。殺陣の音が役者さんの上からするという音像が嫌いで、最近よく下に置いてあります。台の中などに入っているのでHIをすこしシェルビングで上げてあります。ただ、今回はメインSPが舞台の高さのため、前列のお客さんぐらいにしか効果はなかったかもしれません。が!それは好みなのでよいのです!(笑)

システムについて

◯卓周りについて
 劇場卓としてYamaha CL-3がありましたので、それをお借りしました。DANTEで袖のRIO32/16、卓横のRIO16/8に接続してありますので、これをお借りするのが一番手っ取り早いです。音も良いですし。本番中はカスタムフェーダーを利用して、触りたいものだけを表に出してオペをしてもらいました。メインオペの方にも殺陣を一部参加してもらいましたので、仕事は極力シンプルに。(それでも大変な量です)
 M用PCとして、MacBookPro15inch(Live10使用)、I/OはPresonus Studio192を使い、CL3とはadatで接続してあります。Dante接続も考えたんですが、新宿村LIVEのシステムだとDANTEがリダンダント接続されている上にハブがすこし卓から離れていたのでやめておきました。また、回線表には書いてありませんが、バックアップとして、RIO2にMBP、GIGAPORTHD+の組み合わせで8chのバックアップも回してあります。幸運なことに使わなかったそうです。
 送りは回線表のとおりですね。上記しましたが、殺陣音が役者さんの上から聞こえるのが嫌だったので、殺陣SP送りはCBR10とメインSP、補助として802からも出しました。下に置くとやっぱり音像は下がるので、違和感が減ってくれます。雷はプロセをちょっと強め、銃声は一度だけ2階ギャラリーから打つシーンがあったのでその横に置いたSPとメインを混ぜています。お客さんがみている目線と音がそこまで違わないことを目指しました。どこまでお客さんに伝わるかわかりませんが・・・(苦笑)
 殺陣音用PCとして、MacBookPro13inch(Live10使用)、I/OはTC StudioKonnect48で6ch接続です。殺陣音、メインSE、奥SEですね。位置関係ももちろんそうですが、メインオペレーターと同じ効果音送りを持っておくと、Mを大きくなるときに効果音をちゃんと聞かせたい時に楽できますね。(殺陣音の音像を奥にしているとメインSPに勝てなくなることCLシリーズの入力数があったからできた話ではあります。ちなみにPANはLIVEのほうでやっています。
◯アウトについて
 劇場のメインSPにL-AcousticのARCS×3(Outfill×2、Infill×1)+SB218が入っています。素晴らしいスピーカーですね。劇場のシステムプラン自体、もともと音楽liveもできるように設計されていて、メインSPとして鎮座しています。素晴らしいSPですね(2回目)。ただ、ライブサウンドっぽいチューニングがされていて、演劇だとハイが強い感じがしたので、6,3~12khzあたりを中心にEQでコントロールしました。置き位置については、劇場のセッティングからそこまで動かしていません。
 奥のSPは、僕の持っている802を使いました。アンプはQSC PLX1602です。もちろん、ARCSに勝てるわけないですが(笑)音の広がりが独特なSPです。敵が攻めてきた声に気づいたり、また題名の「淡海乃海(=琵琶湖)」の波の音が聞こえるシーンで、役者さんより前で音が鳴ってほしくないシーンがありました。そういうときに802は非常に便利ですね。また、殺陣音用に準備したCBR10とうまく組み合わせると環境音が上から降ってくる感じにはならず、なおかつ役者さんの声がつぶされすぎない良いところができた感じがします。
 吊り方については純正オプションのワイヤーブランケットを使用しました。個人的にはハンガー吊よりすっきりしていて好きです。吊るときも楽ですし、ワイヤー吊もっとはやればいいのに、と思います(ワイヤー一式をそろえるのが大変なんです)。吊り方については純正オプションのワイヤーブランケットを使用しました。個人的にはハンガー吊よりすっきりしていて好きです。ワイヤー吊もっとはやればいいのに、と思います(2回目)
 殺陣音用にCBR10を上下に一台ずつ、装置に隠して置きました。これは音像を下げるために、地面に近いところから音を出して音像を引っ張ろうと思ったのですが、EQでちょっとハイを上げ目にしてみると結構いい音でなってくれました。効果音用と割り切ればいい感じです。ただ、死んだ役者さんの耳と位置がぴったりならないように角度をつけたりする調整も必須になります。
 モニターは後ろの802もあり、SIDEFILLとしてスタンド立てしたELXで十分でした。ちなみに、この週になんと新しくLABGRUPPENのデジタルアンプが入っており、ELXの音が素晴らしくレベルアップしておりました。ただ。。。まあ。。。モニターと銃声だけだったんですけど。。。もったいない(苦笑)
 プロセは劇場にある300WクラスのSPです。ここには声と雷の音のみ送ってあります。
マイクについて

TM90のEQ

机の上で再現

エンタメ芝居ですのでしっかり目にマイクを拾っています。舞台面にバウンダリーマイクtascam TM-90を4枚、自作のPCC台で舞台面より前に設置してあります。大人数がでるので、ちょっとでも蹴ったりするリスクをあります。大人数が出るので、ちょっとでも蹴ったりするリスクを減らしてます。
ガンマイクは、照明さんの隙間をぬって、吊れるところ吊った感じです。エンタメ舞台になりますと、どうしてもムービングライトがたくさん入る関係で、すぐ近くにあるファンの音を拾ってしまいます。そのためにガンマイクにして、横の音を拾わないようにしてはいます。
上手のガンマイクは2階屋のセリフを拾う用途に割り切っています。そこまで高さがある劇場ではないので、かなり拾ってしまうので、インプットディレイとコンプで大きくなりすぎないように調整しています。下手は台上を狙っていますが、結構広めに拾っていましたね。

CX500-1TM90のEQ

CX500。針金を仕込んで自由な角度をつけることが可能

 下手の台と2階屋の手すりにJTS CX500を仕込んであります。下手の台では母親役の方が子守歌を、2階屋ではヒロインが眠っている中で静かに語り掛け、ヒロインも起きてセリフを言います。これを張ってしまうと芝居がもったいないので、局所的に拾うためにラベリアマイクを仕込みました。無指向性のため、ふわっと声を拾います。ただし、ハウリングしやすいという、無指向性が故のデメリットもありますので、注意は必要です。
 CX500に針金をアセテートテープで巻いてあるので、どんな角度でも可能です。ただ、あくまで針金のため、固定されてるわけでないので、毎公演確認するか、ピアノ線などの硬いものに変更するかするといいと思います。
 ワイヤレスマイクについては、上記していますが、子役の子と主人公の精神体「俺」さんの二人にOPだけ付けています。OPは、主人公である「俺」が過去の世界のとある武家の赤ちゃんに転生してしまうところからスタートします。2歳に成長したある日、戦が始まり、父親(当主)を戦で失ってしまいます。負け戦で殺される寸前、主人公と「俺」は現世の知識を使って生き残ることを語り合う、という構成になっていました。セリフの大部分が「俺」の独白で、そこに子供の主人公と生きることを説く、OPから小説とは違うストーリーであることの宣言でもある大事なシーンです(原作での主人公は転生した「俺」自身であり、語り合うシーンなどはありません)。もちろん殺陣もダンスもあり、大人数がステージにいます。その中で子役の子のセリフが聞こえなかったり、セリフのためにBGMや効果音を下げすぎるのはちょっと嫌だなーと思い、この二人にだけ付けてもらう形にしました。といっても、マイクマイクしてしまうのは嫌なので、こめかみのあたりにマイクが来るように自作のヘッドセットとCX500を組み合わせています。無指向性のマイクですので、生声とうまく絡まって、子役の子の迫力のある芝居をお客さんに届けられたかなと思います。
 ちなみに、W/LはLINE6(2.4ghzデジタルワイヤレス)を使っています。劇場さんからトラブルが出ることがあると聞いていましたが、今回はとくに起きることはありませんでした(トークショー含む)。ちゃんとパワードアンテナを入れたこと、回線がそこまで多くなかったのが良かったのかもしれません。ただ、ワイヤレスは基本的に「絶対」はないので、トラブルが起きるかはわかりません(笑
◯収録送りについて
 回線表に書いてる送りになっています。バウンダリーマイクまとめ、ガンマイクまとめについてはPre送りにしてあります。局所的にしか使わない上下CX500、ワイヤレスマイクについてはPOST送りにして、使う時だけあげています。音量がひくいのは収録さんのMTRのほうでゲインを上げて対応してもらいました。
 CL-3だとMIX24まであるので、収録送りもMIXを使って送ることができるので、ストレスなく送ることができました。LS9だと、いつもSTやMONOを使って無理やりやってたり、効果音のPANが振れなかったり。。。MIXの余裕は収録の余裕ですね(笑)ちなみに、機材はZOOM F8n、オプションのもリモートコントローラーでコントロールしていました。
 また、コロナでの自粛ムードがあり、主催がなんと無料配信を行いました。(素晴らしい決断だと思います)そのため、リアルタイムでの送りも行われましたが、それはMTRで録りながら2MIXを作って配信用のPCに送るという形をとったので、ほぼ問題なく配信も行われました。もしこれがマルチ録音はなく、2mixでまとめてとかだったら大変なことになってました。収録さんの対応にも感謝です。

感想とか

 今回、初めてプランナーとして新宿村LIVEに入りました。プランナーとして入ると、あのメインのARCSとどう付き合うか、というのが問題になりますね。劇場のサイズからすると大きなSPですが、能力が高いので色々調整するのが楽しかったです。
 西口さんのダンスと演劇の融合という演出は、ミュージカルに慣れてないお客さんに対して如何に受け入れてもらうかがキモだと思います。感情の高鳴りに合わせてMが入り、自然に舞うという芝居に対して、音響がどうアプローチするか。これは音量のバランス、音像、音のチューニングどれも重要だ、というところからプランを考えました。といっても音響はどこまでいっても役者さんの手伝いですから、うまく乗ってもらって初めて成立します。うまくいったならうれしいですが、、、どうでしょうね。オペレーターの方々はばっちり仕事してくれたので、もしだめなら私の責任です!もうどうしようもないけど!(笑)
 今回小さなこだわりとして、淡海乃海のシーンでは琵琶湖の本物の音を流しています。これは、学生の時にバイク旅行で行ったときにハンディレコーダーで録音していた音です。天気がよく、風もない日だったので静かな湖の音でしたが、一応本物も混ぜてるぜ!ってことで出してみました。それと小浜の波音を混ぜて波の音にしています。(ホントは嘘なんですが、当時の潮の流れを誰も知らないから多少はね)

 この公演はコロナウイルスに伴う自粛ムードが高まり、観客も少なくなってしまった舞台でした。ですが、脚本、演出、役者のエネルギーは素晴らしく、非常にもったいないなぁと。僕自身楽しんで作品と係わっていたので、なおさらです。ですが、主催のTOブックスさんの決意、役者やスタッフの懸命な行動により、最後まで公演を打つことができました。それがどれだけすごいか、それは今これを書いてる自粛中になるとなおさら感じています。これについてはどうしても一言書いておたかったので、ここで改めて演出、原作、脚本、役者、スタッフの方々に感謝をしたいと思います。(僕もスタッフですが、やめろといわればやめるしかないのです)。
ですので、この作品についてはちょっと気合いを入れてこのプランについて説明しました。ほかのページはここまで気合入ってないです(笑