Sound-Rider

「アクリルジャンクション」

舞台音響(プラン)

ポスター

公式HP

スタッフ、出演者はHPを参照ください。
企画:株式会社NLT
制作:Backseatplayer
舞台監督・美術:入倉津
音響:島村幸宏
照明:志佐知香(FictiF)
   近藤加奈子(FictiF)
   和田裕也
写真:藤里一郎
製作総統括:小川浩
プロデューサー:青木夏美
会場:俳優座劇場

<音楽喜劇-ジョア―>
作・演出:大部恭平(おぶちゃ)
演出助手:坂本玲奈
音楽:田中和音
歌唱指導:石川祐子
振り付け:河内達弥
<出演>
鈴木雅也
花房里枝(elfin')
水越友紀
島津恵梨
花松岡佑季
野呂桃花
熊本弥文
松井美瑳乃
若菜唯

<HoneyFunnyXmas>
作・演出:朱木雀空(!ll nut up fam/Superb Shik Squad)
音楽プロデュース:蛯澤亮
演出助手:高橋龍史(!ll nut up fam)
歌手:足立歌音
ファゴット:蛯澤亮
バイオリン:西野絢賀
ピアノ:円能寺美惠
    齊藤真優
<出演>
冨田浩児
安達優菜
藤代海
森川耶美
白井美帆
田中沙季
大河原生純
小西のりゆき

資料

仕込み図1 仕込み図2 回線図

解説

概要

 話は一年以上前。。。制作のAさんから「来年俳優座押さえちゃったからヨロ☆」みたいな話がありました。最初は殺陣とかもなにもない会話劇をやる予定でした。結果、生演奏のミュージカル+生演奏ありのお芝居の2本立てになりました。どうしてこうなった。
 まあ、そんな話はさておいて、やることになった俳優座での生演奏+ミュージカル+生演奏+お芝居。生演奏が2つあるのは、演者さんも入れ替わってしまうので、実質2チームです。なかなかハードです。ミュージカルの方は11人全員にマイクがついていますが、もう一つのお芝居の方では誰にもマイクがついてません。どうなるかといえば、大変だということです(笑
 今回は2作品同時上映。テーマは「プロポーズ」1本目はミュージカル作品「音楽喜劇-ジョア-」11人の役者とピアノ、ベース、ドラムのバックバンドで送る素敵な直球プロポーズのお話。2本目は「Honey funny Xmas」。ファゴット、ヴァイオリン、ピアノ、そしてソプラノをバックに送るドタバタプロポーズコメディ。こちらはマイクがついていないので、オフマイクで拾うことになります。
 作、演出はミュージカル作品はおぶきょの大部恭平くん、お芝居の作品はイルナップファムの朱木朱空くんと。付き合い自体はもう5年ぐらいですかね。大きな劇場でやるのは初めてです。そして、実際楽しい作品になりました。
 だた、マイクは大変な数になりまして、初めてミキサー2つでお送りしました。ただでさえミュージカルもコンサートPAもあまりやらないので、もうてんやわんやです。だれだ、ミュージカルを僕にやらせようと思ったのは。さらにそこに配信の音声のフォローまでしていたので頭が混乱していました( ;∀;)
  ただ、気の知れた方達と、生演奏のミュージカルという未知の領域をできたのは本当に良い経験でしたし、生演奏のパワーを改めて知ることもできましたし、作品も役者も演奏も素敵な、良い時間になりました。

サウンドプラン

今回のはミュージカル(ワイヤレスヘッドセット)と電子ピアノ、ベース、ドラム、ファゴット、ヴァイオリン、電子ピアノ(ヘッドフォンアウト)、それから役者の声を拾うオフマイクというモリモリのマイクがでます。会場の俳優座はキャパとしては300人ですが、縦横広く、小屋なりもそこまでしない演劇用の作りです。ですので、しっかりPAしてあげるとよい音を届けることができます。このことから言えるのは、「きれいにPAしないと大変なことになる」ということです(笑
  ということで、今回も横山さんのお力をかりて、まずは綺麗に音を届けるシステムを作り、それに無理のない音を送る、というのをテーマにがんばりました。これだけのマイクが出ると音のかぶりも多く、足し算ばかりしてしまうとすぐに飽和しますし、音も濁ります。また前半にミュージカルなので、ワイヤレスマイクをつけて会話シーンがあった後にオフマイクで声を拾うということはお客さんからしても違和感が出てしまいます。休憩を挟んでいたとしてもあまりに差が大きいときついと思います。そのあたりを注意しながら音を重ねていきます。
  今回のミキサーはメインミキサーとしてM32 をお借りしました。ただ、この中では全てのマイクが収まらず、サブミキサーとしてLS9を出しています。オフマイクをLS9でまとめ、M32に送っています。
 前半のミュージカルについては、役者全員にマイクを付けてもらっています。会話も含めて全てSPから出しています。音量はそこまで大きくありません。具体的には歌(ソロ)がフェーダーで-0dBだとすると、ー25~-30dBぐらいでしょうか。バンドは電子ピアノ(Line)、Eベース(アンプからline)、ジャズドラムです。ピアノがライン、ベースもそこまで大きいアンプではないので、生のドラムにPA感するかな?ってぐらいのところで抑え、ベースを足してPA感を足し、ピアノをそこにアジャストしていく感じにしました。まあ、実際のところはベース大好き人間な僕が欲に勝てずどんどん低音が上がっていたような気がします。歌になると、上記の通り、楽器を大きくしてそれに声を当てていきました。リバーブはそこまで強くせず、楽器の響きに合わせるぐらいの薄いものです。(演出で強くしているのは除く)。最後のナンバーなどは11人全員で歌うので、それに合わせてバンドの音量もかなり大きなものになりました。
 後半は変わってコメディです。ただし、こちらは役者にワイヤレスがついていません。しかし、楽器はあるわ、ソプラノ歌手はくるわ、役者は走り回るわ、エネルギーが大きいコメディで、それをオフマイクで拾う必要があります。前半のオンマイクミュージカルを見た後にオフマイクを聴くので、エネルギーの伝え方には気を使いました。ただ、役者のみんなはしっかり発声してくれていたし、またオープニングにソプラノ歌手の演奏があったので、良い形で切り替えができたと思います。楽器は電子ピアノ、バイオリン、ファゴットです。バイオリンはオーディオテクニカのピックアップ、ファゴットはKM184でひろいました。みなさん演奏がうまくて、PAはほぼいじることなく流すだけでした。声を拾うマイクはバウンダリー、ガンマイクだけでなく、一部ピンポイントで拾うためにペンシルマイクも置いてあります。今回アクリル板をなにかに見立ててお芝居をしているのですが、その際に電話する相手がアクリル版の向こう側にいる、という演出がありました。どうしてもお客さんと役者の間にアクリル版があるので声が聞こえにくく、さらに楽器の演奏もあるので、ピンポイントで声を拾うマイクを準備しています。とはいえ、大音量の中ですのでなかなか難しいところでもありました。
 全体としては、オンマイク、オフマイク、電子楽器、管楽器&弦楽器、ドラム、そして声楽といろいろな要素があるこの2時間半を違和感なくお客さんが過ごせるように頑張るのがメインミッションでした。

システムについて

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卓周り。頭大根RUN。

○卓まわり
 メインミキサーはM32,オフマイクを拾うためのサブミキサーにLS9-16を使用してます。M32はX32のマイダスverで、素敵な音が鳴ります。いつもお借りしているのでだいぶ使い方にも慣れてきました。今回も素敵な音を出してくれました。M32はサイズとしてはCL3やQL5サイズですが、32ch(+8ステレオ+6AUX)ミキサーです。このサイズ感が非常に使いやすいのです。というか、Yamahaが詰め込みすぎてすげーだけ・・・M32の32chがほとんど埋まっているので、こういう形になりました。一台でやろうとするとQL5が必要になります。
 今回はミュージカルですので、フェーダーの位置についてのシーンを結構つくりました。ヤマハ系のミキサーと違い、「シーン」と「スニペット」をつくり「キュー」で呼び出す順番を作る形です。スニペットはシーンよりも細かく変化するパラメーターを選べます。この違いはYamahaのユーザーだと結構混乱しますね。シーンで「演目」とか「バンド」、スニペットで「曲」を覚えさせて、それをキューで「並び替える」という形です。ちょっと便利だったのは、今回のようにミュージカルの場合、たとえば「全員が舞台上で話す」のが何回かあるというときに、ページごとにスニペットを作るのではなく同じスニペットを呼び出せばよいというのがちょっとだけ楽でした。Yamaha系の卓だとM1→芝居シーン→M2とかでもすべて並べる必要があります。文字で書くとちょっとわかりにくいですね。。。
 音出しはMacBookPro15"(2017)、Presonus Studio192。効果音を流すぐらいでした。バンドの方が演奏していたので、そこまで仕事をしていません。
ステージボックスとして、袖にDL153をお借りして設置しています。卓との接続はLANケーブルです。マルチケーブルを引き回す必要がなくなるので非常に便利ですね。ステージボックスからカナレの16chと8chをバンドのところまで引き回し、各楽器を引き取っています。本来ですと、楽器のところまでステージボックスを引き回すというのもありなのですしょうが、今回はアンプとの兼ね合いでやっていません。もう一台あればそれもよかったのかもしれません。(規模に対して仰々しいような気もしますが)
 収録送り・録音については、収録さん送りをつくりつつ、バックアップでSDメモリーカードの録音をしています。収録送りは、ワイヤレスとオフマイクのバランスがちょっとむずかしかったですね。また、BGMについてもレンジをすこし狭くするために、楽器のまとめを別に作りそれにコンプをかけてコントロールしています。本来であれば配信の音を別に操作するべきでしょうが、一人ではさすがに無理です。それはコンプなどでできる限り良いバランスで送れるようにしています。
 LS9でオフマイクをミックスしています。ミックスしたものをM32で受けて表に出しています。また、ソプラノのリバーブはLS9のほうでかけています。ホール系のリバーブをかけると本当に素晴らしい歌声に磨きがかかりました。また、前半のミュージカルでもすこしだけ生かして、ワイヤレスマイクが落ちたときのバックアップとして働いてもらいました。ただ幸運なことに電波が落ちることなく過ごすことができました。

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今回のSP達

○スピーカーについて
 メインSPにDZR15+DXS15、インフィルSPはDXR8。サイドモニターにDXR12、奥モニターにCZR10をセットしました。毎回良い音で鳴ってくれます。
15inchのDXSもこの劇場で必要十分なローを届けることができます。今回は楽器のPAがあり、ドラム、Eベースもいるので、ローがきっちりなってくれると結果として全体の音量を下げることができるのでローボックスはかなり重要だと思っています。インフィルはDXR8を使っています。今回はミュージカルということもあり、ワイヤレスの声も送っています。スピーカーが良かったのでハウリングなども気にすることなくフェーダーを触ることができました。最前列のお客さんもミュージカルの歌をきれいに聞けたのではないでしょうか。
モニターはサイドモニターのDXR12、2階向けのモニターにはCZR10を使いました。CZR10は角度を付けられるチルトコネクターをつけて、地上階から2階を狙っています。仕込みの時間などを考えて、吊るよりも効率が良いと考えました。吊作業がないだけでかなり楽になります。また、ちゃんと角度もついているので2階で聞いても問題なくモニターすることができます。各奏者モニターとして、パワードのウェッジモニターSP、AM12をお借りしてセットしてあります。こちらもこの現場では十分な音を届けることができました。昨今のパワードSPは本当に良い音が鳴りますね。

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マイキング

〇マイクについて
 ミュージカルでつかうワイヤレスマイクは2.4Ghzのデジタルワイヤレス、Line6 XD-V70を使用しています。ヘッドセットは自作のものを使用、マイクはJTSのCX500FHWのマイク部分を取り出して使用しています。JTSのCX500のマイクカプセルはコスパに優れる良いマイクなのですが、いかんせんヘッドセットが女性にはかなり大きく、つかえません。まあ、JTSはオーストラリアの会社なので、オーストラリアだと女性でも問題ないのかもしれません。日本の女性にはちょっと大きいですね。ですのでピアノ線で作った自作のヘッドセットにテープでマイク部分を括り付けて使用しています。全員DPAとかMKE-2とかはなかなか。。。それは本場のミュージカルのPAさんにお任せしましょう。また、ゲストの人が使えるように、B帯のワイヤレスでQLX-Dを3本持ち込んでいます。こちらはさすがのシュアーのワイヤレス、ばっちりな音がします。
 各楽器のマイクについて。前半バンドはドラムはキック:ATM25、スネア:E904 、トップステレオ:KM184。基本に忠実に、キックから作り、トップを足し、スネアを混ぜています。ウインドチャイムなど細かいネタものもあったのですが、それはトップのマイクたちで十分収音することができました。EBはアンプのDIoutからもらいました。E PfもyamahaCP-44のラインアウトをもらいました。ピアノの音がしっかりしていたので、全体もよいミックスにすることができました。後半バンドはE-PfはヘッドフォンアウトからRADIAL D2を通しました。Viは持ち込みのAudioTecnica Pro35をつけてもらいました。そして一番迷ったファゴットは、いろいろ試した結果、ゼンハイザーMD441Uを使用しました。完全に趣味です。ただ、試してみてわかったのは、ファゴットの全体から出る管楽器としてのふくよかな響きを拾うのには非常に適しているマイクでした。モニターSPとの向きなどはちょっと気を付けました。こちらもさすがの演奏でした。
 オフマイクは、フロントにTM90を5枚、2階部分などを狙うためにガンマイクのAT8015を3本。また、ピンポイントに階段に上って話す際に狙うNT5を2本、階段横から狙います。また、役者が後ろを向いた時用に奥の通路部分にラベリアマイクCX500をセットしました。無指向性なのでそこまでオンの音を拾えるわけではないのですが、ふわっと拾えるのでフォロー用のマイクとしては非常に使いやすいです。
 上記の通り、前半が全員がマイクを付けているミュージカル、後半がマイク無しのコメディですのが、その差ができるだけ小さくなるようにPAには気を使いました。一度休憩をはさみ、アヴェ・マリアの独唱を挟んだので、そこまで気になるということはなかったと思いますが、表現したいエネルギー感とのせめぎあいでしたね。
 また、ソプラノ歌手による歌は、バウンダリーマイクで拾い、エフェクトを足しました。声量的には全く問題ないのですが、演劇用に作られている劇場だと声が響きません。ソプラノはホールで響くように歌うもの、その響きを足してあげるイメージですね。ほんのちょっぴりホールをかけてあげると、俳優座劇場ではなかなか聞こえないアベマリアを聞くことができます。さすがの歌唱でした。

感想

 初めての俳優座で、久々のミュージカル、なかなかやらない生楽器などかなり大変な現場になりましたが、結果終わってみれば楽しい時間でした。
コロナ禍もあり難しい時期での公演でしたが、それも役者も奏者も素晴らしく、また力がある人たちが集まったので良い形になったのだと思います。まー正直大変でしたが(書いてませんが、同じ週にほかの仕事も入っててた)(そもそも一人オペの量じゃない)(あ、マイクケア&モニターさんはいます)、結果良い形で終わったのでよし!ってことにしておきましょう。心が温まる良い公演でした。