Sound-Rider

ペガサス・コンサート Series Vol.I
染田真実子 「たゆたう真珠」

コンサートPA(エレクトロニクス)/録音

ポスター

公式HP

スタッフ、出演者はHPを参照ください。
主催:日本現代音楽協会
出演:染田真実子(チェンバロ) 公式HP
エレクトロニクス:島村幸宏
作曲、エレクトロニクス:松宮圭太 公式HP
作曲:向井響 公式HP
会場:東京オペラシティ リサイタルホール

資料

仕込み図 回線図 資料

ざっくり解説

概要

 ピアノどころか、譜面もまともに読めないのにたまに任される現代音楽のお仕事です。今回はお付き合いのある向井響君の紹介で、彼の知り合いの染田真実子さんのコンサートPA、楽器はチェンバロです。響君の紹介とはいえ、初めましての方、初めましての楽器・・・それだけでも不安なのに、松宮圭太さんという素晴らしい作曲の方までご一緒することになりました。不安がいっぱいでした。が、優しいお二人に囲まれて、何とか形にすることができ。。。たのかな。。。オナカイタカッタ。
 ちなみに、響くんはオランダの地から成功するよう念をおくくっていました。
 真面目なお話も。今回は調律の違うチェンバロを2台用意し、その2台を使ったプログラムです。今回の音響の仕事は、エレクトロニクスと呼ばれる仕事で、PAしつつバックトラックの再生をしたり、マイクで拾った音にエフェクトやDSPをかける仕事です。響君からはモニターとしてクリックを出しつつ、PAしました。松宮さんの曲は松宮さんのほうでチェンバロの音をDSPで加工するとのことで、松宮さんのPCに音をおくり、DSPした音とのミックスをもらっています。
 チェンバロという楽器は初めてだったのですが、繊細かつシャープな音ですね。音量は大きくないのですが、弦楽器特有の鋭さと響きがあります。こんな音が昔も昔からあったのだなと、改めて勉強させてもらいました。また、全体の録音も担当しています。それについては別記します。
 今回も横山斉実さんにお力をお借りしております。ありがとうございます。

サウンドプラン

 今回のメインミッションは向井響君の曲と松宮圭太さんの曲をPAすること、セカンドミッションはチェンバロの音をきっちり拾って松宮さんのほうに送る、チェンバロのPAです。
 そもそもの今回のコンサートは調律を変えた2台を入れ替わって演奏するプログラムです。その2台で音が違うというのはあまりよくありません(積極的に音を変えていくやり方もありますが、今回は採用してません)。ですので、この2台のマイキングはできるだけ同じようにセッティングしたいと思いました。マイクに関しては、ニアマイクをDPA4099、ステレオマイクにはrodeNT5を使いました。
 響くんの曲のエレクトロニクスについて、音源はPCで出しました。メインSPはDZR15とDXS15をお借りして、パワフルに音を出せるようなセッティングです。リサイタルホールは260人程度の比較的小型のホールで明らかに大きいSPチョイスなのですが、これは響君のバックトラックの出力をできる限り強くしたい、という要望から選んでいます。大きな音を届ける場合、ウーハーは必須で、なおかつ響君のバックトラックにはノイズの成分がかなり強いので、音量ではなく音圧を届けるイメージでチョイスしました。また、松宮さんの曲もPSG音源を使った音やDSPでの低音の響きなど、低音からしっかり出したのは正解だっと思います。
 今回の響君の作品は、ノイズを多用したバックトラックの中で、チェンバロの繊細な音と相対してお互いを追いかけあう曲になっています。また、曲の最後は、演者が楽器から離れ、誰もいない中、うなりのような、低音が相当強い音が会場を包みます。実時間にして50秒、しかし知らないお客さんからすると、永遠に続くような感覚を感じ、誰もいないステージを見ながら、普通のコンサートでは聞かない振動に近い唸るようなノイズを聞き続けます。そして、その終わり、ふっとノイズは消え、少女の声(ナレーション)が流れる、という構成です。文字で書いてもわかりにくいのですが、これで大体あっているから恐ろしい作品です(笑)響君から、PAするときはチェンバロをかなり強めに拾い、それに合わせてバックトラックを流したい、最後の演者が楽器から離れた後のノイズはできるだけ大きくしたい、という注文が来ました。そういう意味ではスピーカーのチョイスは良かったのですが、今度はどこまで出してよいか、という問題が出てきました。250人の小屋に対し15"+15"のスピーカーセットですと、ロックライブができるぐらいの音圧をお客さんに届けることができます。ただ、それをコンサートに来たお客さんに浴びせてよいものか。それについても松宮さんやほかのスタッフさんと相談しながら進めていきました。結果として、最後はちょいと会場が揺れるぐらいの低音をお送りすることになりました(笑)
 そしてもう一つの響君からの宿題、それはクリックでの同期でした。バンドなどをやっている人だと、ヘッドフォンなどをしながら演奏することもあるかもしれませんが、チェンバロ奏者の染田さんは全くその経験がありません(ちなみに響君は割とやってる気がする)。ではヘッドフォンをせずにモニターSPから流す、というのも今回のようなホールでの演奏では厳しいです。モニターSPからクリック音がお客さんに聞こえてしまいます。またヘッドフォンをしながらの演奏に慣れてもらうにも、機材をもってないので難しい。そこで、今回は骨伝導イヤフォンで耳を開けてもらい、骨伝導でクリック音を聞いてもらうことにしました。多少慣れは必要ですが、お客に届く音は最小で済み、またチェンバロの演奏も自分で聞くことができます。詳しい話は後述します。
 チェンバロの音量というものはほかの楽器に比べるとそこまで大きい音ではありません。とはいえ、チェンバロのソロ曲だけならPAはいらないでしょう。ですが、エレクトロニクスが入る曲だけが特別大きくしてしまうと、お客さんが違和感を感じてしまうと思います。そこで染田さんとも相談し、すこしだけPAすることにしました。自然な響きかつ、流れとして気付かない程度に大きくしていき、エレクトロニクスが入る曲に導入できるようにしました。インフィルもよくなってくれて、どこに座ってもチェンバロを音を楽しめたのではないでしょうか。たぶん。
 余談ですが、響くんの曲の後に休憩が入りました。その時に、響くんのほうから、ナレーションをいれるまで長めの余韻がほしい、と言われました。また、響くんの曲にボーカロイドの音も使っている、ということをきいたので、せっかくなので休憩ナレーションもボイスロイドを使うことにしました。僕が結月ゆかりさんをもっていたので、それでナレーションを作ってみました。ボイスロイドって気付かないぐらいスムーズな音源なので、お客さんのほとんどは気付かなかったと思います(笑

システムについて

〇卓周りについて
 ミキサーはM32Rです。ベリンガーのX32のマイダスverですね。ローからハイまで綺麗に鳴らしてくれてる素晴らしいミキサーだと思います。僕がいつも使っているLS9はピアノやチェンバロなどの倍音が綺麗な楽器とはちょっと相性が悪い気がしています。バンドサウンドなどではどん!と出てくれて楽しいんですけどねぇ。ということで、M32Rをお借りしました。フェーダーの反応もよく、オペがかなりやりやすいです。ただ、画面が小さいのが難点です。まあ、ipadを使おうね、ってことなんでしょう。
 響くんのバックトラックを再生するのは、演劇での音出しと同じやり方です。I/OはTC Studiokonnekt48、MacBookPro13"(2014)、DAW:abletonLive10です。音源はステレオとクリックトラックです。また、同様に松宮さんのPC(インターフェイス使用)の入力をステレオ分接続しています。上記しましたが、ニアマイクをエフェクト&DSPするように、マイクのダイレクトアウトを松宮さんのオーディオインターフェイスに入力しています。studiokonnekt48はTC Elecrtoのインターフェイスで、かなり音が良いI/Oです。特にHIの出方がよく、クラシックによく合うと思っています。ですので普段使っているpresonus Studio192は録音に回ってもらいました。
 エフェクトについて、もともとホールの反響が素晴らしいのでリバーブはバックトラックにあわせてすこしだけ混ぜてるぐらいです。全くないとSPの前のお客さんにはドライすぎるので、ちっとだけかけています。小屋の残響が1.9s(空席時、500Hz)で、1.2sぐらいのイメージです。
◯アウトについて
 メインSPにはDZR15とDXS15のセットを使っています。上記しましたが、この小屋の規模としては大きいSPですが、お客さんに届けたい音を考えると適正サイズだと思います。インフィルにはDXR8 を使いました。同じYamahaのスピーカーで音がそろっていていい感じです。ただ、DZRシリーズは横に広く出るSPで面で飛んでくるので、インフィルの仕事は前列の2列ぐらいのためのものです。そこのお客様にも今回のようなプランですと音を届ける必要があるので重要だとは思っています。
 モニターにはパワードモニター、AM12をお借りしました。今回、チューニングの違うチェンバロがありますが、両方ともでバックトラックを聞きながらの演奏があります。なので2台のチェンバロの横にセットされています。
〇インプットについて
 今回のインプットは本来のPAと同時に、DSPするために音を収音する目的もあります。松宮さんの方でDPA4099を持ち込んでいたので、もう一台のチェンバロにも4099をセットしました。これはイメージとしてはピックアップとしての収音ですね。セットした位置も弦(用語違ったらごめんなさい)の近く、アタックの強い音を拾っています。ステレオマイクはNT-5を2本ずつセットしてあります。最初ラージダイヤフラムでのステレオ収録を考えたのですが、4本準備するのは難しく、結果として4本そろえられるものかつある程度音が良いもの、ということでNT5にしました。ペンシルマイクとしてはエントリーモデルですが非常によく拾ってくれました。セットは個体の響きを生かしたいため、1mぐらい離れたところにセットしてあります。
 実はNT5、4本持ってて、さらに横山さんも2本持っていたので予備までばっちりでした(笑)
〇骨伝導ヘッドフォンでのクリックのモニターについて

骨伝導イヤフォン

実際に使った骨伝導イヤフォン

骨伝導イヤフォン

稽古中の様子。PC,I/O、MSP3、イヤフォンを持ち込み。実際に装着してます

 今回、響君の曲について、バックトラックとの同期でどうしてもクリックを聞きながらの演奏をしなくてはいけませんでした。今回の会場はある程度大きいとはいえ、クリックの音をモニタースピーカーから流すと、さすがにお客さんに聞こえてしまいます。ですので、ライブなどではヘッドフォンなどでクリックを聞きながら演奏します。しかし、これは普段からヘッドフォンなどをしながら楽器を弾くことに慣れている必要があります。染田さんはその経験がありませんでした。特に耳を塞いでの演奏はやったことがないとのことです。今から慣れるのは普段の練習の際に機材などがそろっているなら可能かもしれませんが、今回はかなり難しい。ということで色々悩んで考えたのが骨伝導イヤフォンでクリックだけをモニターする方法でした。
 そもそも骨伝導イヤフォンというものは、音を振動に変換し骨を振動させて内耳で直接きくという構造のイヤフォンです。耳をふさぐことなく音(音楽)を聞くことができるため、スポーツ用やトランシーバー用として販売しています。とはいえ、まだ発展途中のもので、現在手に入るものでは音量はそこまで大きくすることができず、また音質もよいものではありません(音量を大きくすると、振動板のところから音が聞こえます)。しかし、今回はクリックのみを再生する、そしてお客さんにクリック音をできるだけ届けないのが目的ですので、うまく合うのでないかなと思いました。
 染田さんと相談し、東京での稽古の段階から機材を準備して実際に試してもらいました。家でもクリックとバックトラックを聞きながらの練習はしていたので、稽古場ではバックトラックを見にスピーカーから流しつつクリック音をヘッドフォンでしながら練習してもらいました。具体的には、実際に使うPC、I/Oを持ち込み、ミキサーとアンプ、ミニスピーカーを持ち込みました。ほぼ本番と同じ形です。最初は慣れないようでしたが、何度か練習して演奏はできる、という判断になりました。
 本番では、ヘッドフォンアンプ替わりに小型ミキサーからヘッドフォンへ音を送ってました。ちなみに、ワイヤレスイヤモニでの接続も考えたのですが、染田さんのドレスが素敵だったのと、ポケットがなかったので今回は見送りました。
 使用感はどうだったんでしょうか。耳がふさがれていないとはいえ、正直やりやすいものではなかったと思います。とはいえ、本番が素晴らしい演奏になりましたので大丈夫だったんだと思うことにします。一応、ご本人からはかなり安心して舞台にあがれたと言っていただきました。ちなみに、ずっとつけてると振動でこめかみが痒くなっていくので、コンサート中ずっとつけるのには向いてないと思います。

録音について

DAWのセッション

DAWのセッション画面。

 今回、全体のレコーディングも担当しました。各マイクやPC入力などをマルチ録音し、さらに三点吊マイクとアンビエンスマイクとしてガンマイクを2本足して録音しました。
 PC:MacBookPro13”(2014)、DAW:adobe AuditionCS6,I/O:Presonus Studio192を使いました。三点吊としてAT815 を吊り、アンビエンスマイクとしてNTG2を2本、PA卓の横にマイクスタンドで立てて、I/Oに接続しました。またステージボックスDL16をM32Rに接続し、adatで各マイクとPC入力のダイレクトアウトをI/Oに接続しました。またバックアップとして、M32RにLiveCardを装着し、SDメモリーカードへのマルチ録音しました。なお、LiveCardにはUSB接続して直接DAWでの録音も可能ですが、試す時間がなくて今回は見送りました。あとになって考えれば3点吊、アンビエンスマイクもM32にいれて、そこからadat接続&SDメモリーカードへの二重体制で録音できたなぁと反省してます。studio192のマイクプリも素晴らしい音ですけどね!

感想など

 今回も色々と大変な内容でしたが、さらにラフィングライブの次の日というなかなかの日程でして、それもあり皆様にご迷惑をおかけしながらの公演になりましたが、皆様のおかげで何とか?音響作業を終えることができました。染田さん、松宮さん、他スタッフの方々本当にありがとうございました。
チェンバロの音はなかなか言葉では伝えることができないのですが、それに加えて今回の曲達は言葉にはできず、さらにDSPされた曲に素晴らしいバックトラックとの協奏は言葉に表すことはできません。そこで、松宮さんが録音した音源をもとにご自分でミックスされた映像を発表しております。ぜひご覧ください(ダイマ)

 mixされた音源も素晴らしいのですが、会場での演奏やその音の空間は本当に素晴らしく、楽しく、PAしていた僕が言うのもおかしいですが素晴らしいコンサートでした。参加できて光栄です。ありがとうございました。